ゲーム原作IPのメディアミックス:映像化成功例とクロスメディア展開の展望

2023年に公開されたアニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、世界興行収入が約13億6000万ドル(約2000億円)を記録し、ゲーム原作映画として史上初めて全世界興収10億ドルを突破しました。
これは、従来このジャンルでトップだった『Warcraft(ウォークラフト)』(2016年、約4億3900万ドル)や『名探偵ピカチュウ』(2019年、約4億3100万ドル) を大きく引き離す、桁違いの成功です。
さらに、2025年公開の映画『Minecraft』は、世界興行収入約9億5,785万ドル(Box Office Mojo)となり、スーパーマリオに次ぐ規模のヒットとなりました。
マリオのヒットとゲームの映画化続々
日本発のキャラクターIPによるハリウッド映画としても歴代最高の成績となり、映画界においても特筆すべき記録的ヒットと言えます。
この数年、マリオ以外にもゲーム原作の映像作品が次々と成功を収めています。
例えば実写映画では『名探偵ピカチュウ』(2019年)が約4億3千万ドルの興収でシリーズもの以外の単発作品として健闘し 、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズも第1作(2020年)は約3億2千万ドル、第2作(2022年)は約4億5百万ドルを記録しました。
さらに『アンチャーテッド』(2022年)は約4億700万ドルのヒットとなり 、図1に見るように近年は4億ドル規模の興収を上げるゲーム映画が相次いでいます。
加えてテレビドラマシリーズの分野でも、HBO制作の『The Last of Us』(2023年)はゲーム原作ドラマとして例のない高評価と視聴者数を獲得しました。
初回放送は米国で470万人が視聴し、その後エピソード平均3200万人に達してHBO史上最も観られたデビューシーズンとなり、批評家からも「史上最高のゲーム原作映像化」と評されるほどの称賛を受けています。
このようにゲーム発のIPが映画・ドラマで成功を収める“黄金時代”が到来しつつあるのです。
過去の挑戦と技術進歩が支えた成功
ゲーム原作の映画化自体は目新しい現象ではありません。
さかのぼれば1993年には早くも『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(実写版マリオ映画)が製作されましたが、当時はゲームの内容があまりに現実離れしており、無理に実写のフォーマットに当てはめた結果、興行的にも失敗に終わりました。
1990年代の『ストリートファイター』『モータルコンバット』、2001年の『トゥームレイダー』や同時期開始の『バイオハザード(Resident Evil)』実写映画シリーズなど、ゲーム原作映画はいくつも試みられましたが、大ヒットと言える作品はごくわずかでした。
それでも2000年代には『トゥームレイダー』『バイオハザード』『サイレントヒル』のようにシリーズ化されるヒットも生まれています。
こうした成功の背景には、ゲームと映画双方の技術的進歩があります。
ゲーム側では3Dポリゴン技術により映像表現のリアリティが飛躍的に高まり、映画側でもILMに代表されるCG・VFX技術の革新でゲーム的な世界観を映像化できる環境が整いました。
つまり1990年代から現在にかけてゲームと映画がお互いの表現手法に歩み寄ってきたことで、「ゲーム原作映画」というジャンルが成立しやすくなったのです。
ハリウッドの変化も後押し
加えて、近年のハリウッドにおけるコンテンツ潮流の変化も見逃せません。
かつては筋肉派アクションやシリアスなドラマが主流だったハリウッド映画ですが、2010年代以降はアメコミ原作のヒーロー映画が台頭し、観客もヒーローやファンタジーといった荒唐無稽な世界観を受け入れるようになりました。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の連続成功は「ゲーム由来のヒーロー物語は大人向けになり得ない」という先入観を壊し、ゲーム原作映画にも追い風をもたらしたと言えるでしょう。
さらに映画会社側の戦略として、ソニー・ピクチャーズが自社グループのPlayStation系ゲームIP(『アンチャーテッド』や今後予定される『グランツーリスモ』『ツイステッドメタル』など)の映画化に積極的であることも、企画実現を後押ししています。
このように技術面と市場環境の両面から土壌が整った結果、ゲーム原作映像化の大型プロジェクトが次々と動き出している状況です。
ゲームの魅力を映像で表現する課題と克服
もっとも、ゲームを映像作品に翻訳する際には依然として固有の難しさが存在します。
最大の課題は、インタラクティブ(双方向)な体験をどうパッシブ(鑑賞型)の映像に置き換えるかという点です。
ゲームではプレイヤーが自ら操作し物語に関与できるのに対し、映画やドラマでは受け身で見るしかありません。このギャップを埋めるために、制作者はゲームファンが感じた興奮や没入感を映像ならではの工夫で再現しなければなりません。
例えば『名探偵ピカチュウ』ではゲームとは異なるオリジナルストーリーを用意しつつ、ポケモン世界の魅力を実写とCGの融合で違和感なく描き出しました。
また『ソニック・ザ・ムービー』では当初のキャラクターデザインにファンから苦情が殺到し、製作側が急遽デザインをゲーム寄りに修正する出来事もありました。こうした例は原作ゲームのイメージを尊重し、ファンとの認識のズレを最小限に抑えることの重要性を物語っています。
ゲームの大作化と映画化のギャップ
さらにゲームは大作になると数十時間にも及ぶ膨大なストーリーや世界観を内包します。
それを2時間程度の映画や数話のドラマシリーズに凝縮するには取捨選択が不可避であり、どの要素を核に据えるかが成否を分けます。
成功した作品の多くは、ゲーム固有のゲームプレイ体験をそのまま再現しようとするのではなく、キャラクターの内面や物語性に焦点を当て直している点が共通しています。
たとえば『The Last of Us』ドラマ版では、ゲームの緊迫したアクションよりも登場人物の心理描写や人間ドラマに重点を置き、ゲーム制作者であるニール・ドラックマン自身が脚本に参加することで原作の魂を損なわない映像化を実現しました。
また、任天堂がマリオ映画の共同プロデューサーに宮本茂氏(マリオの生みの親)を起用したり、カプコンが『バイオハザード』『モンスターハンター』の映画化に監修的立場で関与したりするなど、原作側と映像制作側の緊密な協力も近年の成功例で目立つ傾向です。
このようにしてゲーム本来の魅力と物語を活かしつつ、映像媒体ならではの表現で再構築することで、プレイヤーの主観的体験をスクリーン上の客観的な物語へと昇華する努力が続けられているのです。
ゲームと映像作品のクロスメディア展開
ゲーム原作が映像化される流れと並行して、映像発の人気作品をゲーム化する逆方向のクロスメディア展開も見られます。映画やテレビのヒット作を題材にしたゲームは昔から存在し、近年ではその質も向上しています。
たとえば映画『スター・ウォーズ』シリーズは1970年代の公開当初からゲーム化が進み、累計で40億ドル以上ものゲーム売上を生み出してきました。
またマーベルのヒーロー映画に触発されて開発されたゲーム(例:スパイダーマンやバットマンのゲームシリーズ)は、その完成度の高さから映画ファンとゲームファン双方に訴求するコンテンツとなっています。
かつては映画公開に合わせたタイアップゲームは粗製乱造との批判もありましたが、現在では映像作品の世界観を丁寧にゲームに落とし込む例も増えました。
例えば『マトリックス』の世界を補完するゲーム『Enter the Matrix』(2003年)は映画と連動したオリジナルストーリーを展開し、映画ファンに新たな体験を提供しました。
近年ではNetflixが自社コンテンツをゲーム化する試みも始めており、映像とゲームのボーダレスな展開が模索されています。
日本流のメディアミックスに新たな変化
一方、ゲーム発のIPを複数の媒体で同時展開する「メディアミックス」は日本のコンテンツ業界では以前から盛んでした。
特にアニメや漫画とゲームの相互展開は一般的ですが、ここへきてハリウッドやグローバル配信プラットフォームがゲーム原作IPに熱視線を注いでいる点に新しさがあります。
Netflixでは日本のゲームIPを原作とする映像作品にも力を入れ始め、CGアニメシリーズ『バイオハザード: インフィニットダークネス』(2021年)や実写ドラマシリーズ『バイオハザード』(2022年)、さらにはアニメシリーズ『Devil May Cry』を2025年に公開するなど、日本発ゲームの世界観を世界規模で映像化する動きが出ています。
またアニメ『Arcane(アーケイン)』(2021年、ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』原作)や『Cyberpunk: Edgerunners』(2022年、ゲーム原作)といった配信作品が国際的に高評価・高視聴数を記録し、ゲームと映像の境界を越えたヒットを飛ばしています。
これらは単なる原作消費に留まらず、映像作品をきっかけに新規ファンがゲームに興味を持ったり、逆にゲームファンが映像サービスの利用を始めたりする相乗効果も生んでいます。
実際、『ウィッチャー』シリーズ(元は小説ですがゲーム人気で有名になったIP)のNetflixドラマ化後には原作ゲームの販売が再び伸びる現象も報告されました。ゲームと映像がお互いに観客層を送り合うクロスメディア戦略は、今やエンタメ業界全体のトレンドとなりつつあります。
メディアミックス拡大がもたらすビジネス的メリット
ゲーム原作IPのメディアミックス展開がここまで活発化している背景には、ビジネス面の明確なメリットがあります。
まず第一に認知度の飛躍的向上です。
ゲームという枠組みを超えて映画館や配信サービスで映像化されることで、普段ゲームをしない層にもキャラクターや世界観が届き、IP全体の知名度が上がります。
例えば『ポケットモンスター(ポケモン)』はゲーム発のIPですが、長年にわたるアニメ放映や映画化、関連グッズ展開によって、ゲームを遊んだことがない人でもピカチュウを知らない者はいないほどの国民的認知を獲得しています。
これはメディアミックス戦略がIPにもたらす威力を如実に示す例でしょう。
収益機会の最大化にも寄与
第二に、収益機会の最大化があります。
ゲーム単体ではリーチできない市場(映画興行収入やストリーミング契約者、テレビ放映権料、グッズ売上など)から新たな収益源を得ることができます。
近年ゲームの開発費・宣伝費は高騰しており、一つのゲームがヒットしただけでは十分な利益を確保しにくくなっています。そこで、人気ゲームをIP(知的財産)として多方面に展開することで投資の回収と利益拡大を図るのです。
実際、マリオ映画の大ヒットは任天堂にとって興行収入の分配金だけでなく、マリオ関連グッズやテーマパーク(任天堂とUSJの提携による「スーパー・ニンテンドー・ワールド」)への集客増加といった副次的な収益効果も大きいと考えられます。加えて、映像化によってゲームシリーズ自体の過去作販売や新作へのブースト効果も見込めます。
映画を観て初めてマリオに触れた子どもがゲームを遊び始めたり、ドラマ版『The Last of Us』を観てゲームもプレイしてみたいと感じる視聴者が現れるなど、コンテンツ相互間でユーザーが循環する好循環が生まれます。
コンテンツの深みを増す、IPへのメリットも
第三に、コンテンツの世界観の深化・拡張というメリットもあります。
異なるメディアごとに表現できる要素は異なるため、メディアミックスによってIPの世界に多層的な広がりを持たせることができます。
ゲームでは描き切れなかったキャラクターの背景を映画で補完したり、映画では語られなかったエピソードをアニメシリーズで掘り下げたりと、一つのIPを多角的に掘り下げてファンの満足度を高めることが可能です。
例えば『ポケモン』ではゲーム本編に登場しないオリジナルストーリーや地域を舞台にした映画作品が毎年のように公開され、ポケモン世界の奥行きを広げています。こうした展開は熱心なファンの考察・議論を呼び起こし、結果としてIP全体の寿命を伸ばす効果も期待できます。
もっとも、メディアミックスには慎重な舵取りが求められます。
先述の通り、原作と別媒体の作品との間で設定や解釈の不一致があるとファンから批判されるリスクが高まります。
実際、かつてスクウェア(現スクウェア・エニックス)が製作したフルCG映画『ファイナルファンタジー』(2001年)は、ゲームシリーズとの直接的な関係性が薄かったためファンにも一般層にも訴求できず、莫大な赤字を出す失敗例となりました。
この教訓からも、原作リスペクトと新規層へのアピールの両立が鍵となります。幸いにも現在は、ゲーム会社自身が映像スタジオと提携して作品づくりに関わるケース(例えばソニーや任天堂、カプコンのように)や、ファンの声を取り入れながら製作を進める手法が定着しつつあります。
今後もゲーム原作IPのメディアミックスは拡大していくと予想されますが、その成功にはこうしたファンコミュニティとの対話と、メディアごとの特性を活かした創意工夫が欠かせないでしょう。
おわりに:ゲーム原作IPメディアミックスの未来
ゲームは今や世界で約37億人がプレイする巨大市場に成長し 、映画や配信ドラマもグローバルに視聴される時代です。
この両者の融合領域には、エンターテインメントの新たな可能性が広がっています。今後も『スーパーマリオ』に続けとばかりに、『ゼルダの伝説』『メタルギア・ソリッド』『モンスターハンター』など多くのゲームIPの映像化企画が噂されています。
また映像側からも、『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』『Marvel』などの巨大IPが引き続きゲーム展開を強化していくでしょう。映画とゲームという二大エンタメ産業の連携は、一時的なブームではなく構造的なトレンドとなったように見えます。
事実、ハリウッド大手も「次のマーベル」をゲームの中に求め始めています。
この流れが成熟していけば、単に原作を別メディアで“なぞる”だけでない、新しい表現形態の誕生も期待できます。実際にNetflixでは視聴者が物語の選択肢を決めるインタラクティブ映画『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』を配信し話題を呼びました。
ゲームの要素を取り入れた映像作品、あるいは実写映像を組み込んだゲームといったジャンル横断的な実験も始まっています。
これらはゲームと映像の境界線をますます曖昧にし、新たな没入体験を提供するかもしれません。ゲーム原作IPのメディアミックスの先には、単なるクロスメディアを超えた「融合メディア」のエンターテインメントが控えているのかもしれません。
参考資料(出典)
- 小野寺系 「映画『マリオ』『ピカチュウ』『ソニック』はなぜヒット?ゲーム原作のハリウッド映画、大躍進の背景を考える」 (CINRA, 2023年6月23日)
- 同上 (CINRA記事)他
- Christopher R. Rice “Challenges in Adapting Video Games To Other Media” (Haptic, 2024年4月5日)他
- “List of highest-grossing films based on video games” (Wikipedia英語版, accessed 2025年8月)
- 中山淳雄 「世界で最も売れたゲームの金字塔『マリオシリーズ』~5兆円の経済圏を生み出す任天堂のIPビジネスの特殊性とは?」 (JBpress, 2025年6月23日)
- G-JOBエージェント コラム「ゲーム業界におけるメディアミックスとは?成功事例と戦略・注意点を徹底解説」 (2025年6月25日)
- “The Last of Us (TV series)” (Wikipedia英語版, accessed 2025年8月)
- “List of highest-grossing media franchises” (Wikipedia英語版, accessed 2025年8月)
- “Devil May Cry (TV series)” (Wikipedia英語版, accessed 2025年8月)
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