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世界を席巻した日本発IP事例:ポケモンと鬼滅の刃に学ぶ

日本発の優れた知的財産(IP)が、国内のみならず世界中で熱狂的なファンを生み出し、巨大な経済効果をもたらした事例として、「ポケモン」と「鬼滅の刃」が挙げられます。

本記事では、ゲームから始まり世界最大級のメディアミックス展開を遂げたポケモンと、社会現象的ブームから世界興行収入トップにまで上り詰めた鬼滅の刃という2つのケースを取り上げ、それぞれの成功の軌跡と戦略のポイントを考察します。

優良IPがいかに国内外でファンを熱狂させ、経済的な成果を生むのか、その共通点と秘訣を探ってみましょう。

ポケモン:世界最大級のメディアミックス戦略とグローバル展開

1996年にゲームボーイ向けソフトとして誕生した「ポケットモンスター(ポケモン)」は、ゲームのヒットを皮切りにカードゲーム、テレビアニメ、映画、グッズ販売など多方面へとメディアミックス展開し、四半世紀以上にわたり世界的人気を維持する巨大IPへと成長しました。

その累計収益規模は全世界で約921億ドル(約10兆円超)に達し、メディアフランチャイズの総収益ランキングで堂々の世界一位に輝いています。

この数字はスターウォーズやディズニーの人気キャラクター群を凌駕するもので、年間平均にすると約40億ドルを稼ぎ出している計算になります。ポケモンはまさに世界最高クラスの収益を生むIPビジネスの代表例といえるでしょう。

デジタルによるグローバル戦略

ポケモン成功の鍵の一つは、デジタル戦略によるグローバル展開です。

例えば公式YouTubeチャンネルは言語・地域別に20以上開設されており、子供向けの「Pokémon Kids TV」から各国向けのゲーム・アニメ配信チャンネルまで幅広く運営されています。中でもインド市場向けにヒンディー語で運営されている「Pokémon Asia Official (Hindi)」は登録者が2,480万人を超えており(2023年12月時点)、YouTubeの「ダイヤモンドクリエイターアワード」(登録者1,000万人超)を受賞したほどの規模です。

これはポケモンがデジタルプラットフォーム上で積極的に多言語コンテンツを提供し、新興市場を含む世界各地のファン層を開拓していることを示しています。公式動画配信やSNSによる情報発信によって、国境を越えたブランド浸透とファンコミュニティ形成に成功しているのです。

社外企業とのIP連携

さらに、社外企業との連携による新展開もポケモンIP拡大の大きな原動力となりました。

米国企業ナイアンティック(Niantic)と協業して2016年にリリースした位置情報ARゲーム「Pokémon GO」は世界的社会現象を巻き起こし、初年から5億ダウンロードを突破する空前のヒットとなりました。

その後もダウンロード数は累計で10億を超え、2020年までに全世界で60億ドル以上の売上を記録しています。2024年までの累計課金収入は約79億ドル(約8,500億円)に達し、年間5億ドル規模の収益を安定して上げ続けています。

このようにモバイルゲーム市場でも大成功を収めることで、ポケモンは従来のゲーム・アニメファンだけでなく幅広い層にリーチし、IPの裾野を世界中に広げました。またハリウッドとの提携による実写映画化も話題を呼び、2019年公開の『名探偵ピカチュウ』は世界興行収入4億3,300万ドル(約470億円)超を記録してゲーム原作映画として歴代トップクラスのヒットとなりました。

他にも、中国のテンセントと提携したゲーム『Pokémon UNITE』の開発(2021年)など、海外企業とのコラボレーションを通じて市場ごとの最適な展開を図っています。

このようにポケモンは、自社コンテンツの多角展開に加え、デジタル技術やグローバル企業との協働を取り入れることで、常に新しい楽しみ方を世界中のユーザーに提供してきました。その結果、子どもから大人まで世代や国境を超えたファンコミュニティを形成し、長期的なブランド価値を維持・向上させることに成功しているのです。

鬼滅の刃:国内ブームの爆発と世界的ヒット

一方、近年の日本発IPでもっとも急速かつ劇的に成功を収めた例が『鬼滅の刃』です。

吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)氏原作の漫画『鬼滅の刃』は2016年から週刊少年ジャンプで連載が始まりましたが、当初の発行部数はアニメ放送開始時点で累計350万部でした

しかし2019年にテレビアニメ化(「竈門炭治郎 立志編」放送)されるやいなやクオリティの高い映像表現と物語の魅力で火が付き、幅広い層に受け入れられて社会現象化しました。

漫画の売上はアニメ放送後に爆発的に伸び、2019年末までに2,500万部、2020年5月に6,000万部、同年10月に1億部を突破し、最終巻発売後の2020年12月には1億2,000万部に達しました。

連載完結後もその勢いは止まらず、2021年2月には累計1億5,000万部(電子版含む)を突破。そして最新の発表では2025年7月時点で全世界累計2億2,000万部(国内1億6,400万部・海外5,600万部)に上るとされています。連載終了から数年経てもなお売上を伸ばし続ける異例のベストセラーとなっており、鬼滅の刃がいかに強力なIPとなったかを物語っています。

映画で世界を席巻

鬼滅ブームを決定的なものとしたのが、2020年10月に公開された劇場版アニメ『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』です。

公開直後から社会現象的ヒットとなり、日本国内の興行収入は史上初めて400億円の大台を突破しました。さらに海外でも公開され、全世界での興行収入は約517億円(約4億7,460万ドル)に達し、中国映画『八佰(はっぴゃく)』を抜いて2020年の年間世界興行収入ランキング第1位に輝く快挙を遂げました。

日本のアニメ映画が年間の世界興収トップになるのは史上初の出来事であり、この記録からも鬼滅の刃が国内外のファンを熱狂させた度合いが窺えます。コロナ禍で世界的に映画産業が打撃を受けた中、本作は各国で劇場動員を牽引し、結果的に2020年の世界映画興収ナンバーワンとなったのです。

経済的な波及効果

鬼滅の刃の経済波及効果も驚異的でした。

漫画の爆発的販売や映画の興行収入に加え、キャラクターグッズ販売や企業コラボ商品も次々と展開され、市場を活性化させました。民間研究機関の試算によれば、鬼滅の刃による国内経済効果は総額2,700億円規模に上るとされます。

内訳はコミックスや関連書籍の売上が約850億円、映画関連収入(興行収入や映像メディアなど)が500億円以上、さらにキャラクター商品やタイアップ企画による売上が1,300億円超と見込まれています。

これは、例えばバレンタイン・ハロウィン・ホワイトデーといった主要季節イベントの市場規模を合計した額にも匹敵するほどで、単一のエンタメ作品として異例の経済インパクトです。

実際、映画公開当時は関連グッズが飛ぶように売れ、飲食・アパレル・玩具から鉄道・観光企画に至るまで様々な業界で鬼滅コラボが展開されました。鬼滅の刃は国内消費を喚起する起爆剤ともなり、不況下にあった娯楽産業を大いに潤したのです。

世界的成功の背景

鬼滅の刃がこれほどまで世界的成功を収めた背景には、作品自体のクオリティと魅力に加えて、グローバルな配信戦略があります。

テレビアニメ版はNetflixなどのストリーミングサービスを通じて海外でも視聴可能となり、北米や欧州でも多くのファンを獲得しました。劇場版も北米やアジアを含む45の国と地域で公開され、全世界累計で4,135万人を動員しています。

北米では外国語アニメ映画として異例の4,000万ドル以上の興収を記録し、日本以外の地域でも軒並み興行ランキング上位に入りました。さらに2021年以降も次々とテレビアニメ続編(遊郭編、刀鍛冶の里編、柱稽古編)が制作・放送され、2023年には舞台(演劇)化や家庭用ゲーム化も行われるなど、完結後も多角的な展開でファン層を維持しています。

このように鬼滅の刃は、国内ブームを一過性で終わらせず積極的に海外市場へと広げ、クロスメディアでIP価値を最大化する戦略を取ったことが成功要因といえます。

優良IPに共通する戦略ポイントとグローバル展開の教訓

ポケモンと鬼滅の刃、一見すると誕生時期もジャンルも異なる2つのIPですが、その成功にはいくつかの共通するポイントが見られます。

  1. メディアミックスによる多面的な展開:
    両IPとも、原作の枠を超えて様々なメディアや商品に展開することでファン層を拡大しました。ポケモンはゲーム・カード・アニメ・映画・玩具とあらゆる方面で展開し、鬼滅の刃も漫画・アニメ・映画に加えて舞台やゲーム、グッズとメディアミックス戦略を取っています。多面的な露出により、それぞれのIPは接触機会を増やし、新規ファンの獲得や既存ファンの熱量維持に成功しました。この戦略はIPビジネスにおける基本でありながら、世界規模で実践し成功させた点に両者の卓越性があります。
  2. デジタル技術とプラットフォームの活用:
    インターネット時代において、デジタル展開はグローバルな成功に不可欠です。ポケモンは公式YouTubeチャンネルの多言語運営やスマホゲーム開発など、デジタルプラットフォームを積極活用して世界中のユーザーと直接つながりました。鬼滅の刃もストリーミング配信を通じて国外ファンにリーチし、SNS上での話題拡散によって海外でも知名度を高めました。デジタル技術は国境を越えたコンテンツ流通を容易にし、ファン同士のコミュニティ形成も促進します。優良IPはこの波に乗り遅れず、時代に合った発信手段を取り入れることでグローバル展開を加速させています。
  3. 外部パートナーとの協業による市場拡大:
    自社だけでは届かない市場や領域に進出するために、適切なパートナーシップを組むことも成功の重要な要素です。ポケモンはナイアンティックとの協業で新しいゲーム体験を創出し 、ハリウッド映画化ではワーナーなど海外の映像企業とタッグを組みました 。また中国企業との連携で新規ゲームを配信するなど、各地域の有力企業と組む柔軟さも見られます 。鬼滅の刃の場合、作品自体の制作は国内企業中心ですが、配給のアニプレックスや東宝が海外展開にも注力し、各国の配給会社と協力して世界公開を実現しました。さらに多くの企業がコラボ商品を発売し相乗効果を生んでいます 。このようにオープンな姿勢で社外のリソースを取り込み、IPの露出と価値を最大化するのも共通点です。
  4. 圧倒的クオリティとファン志向:
    最終的にIPビジネスの成否を分けるのは、コンテンツそのものの魅力とファンに対する誠実な姿勢でしょう。ポケモンは長年にわたりゲーム性やキャラクターデザインのクオリティを保ち、新作ごとに進化を続けています。鬼滅の刃もアニメ制作で妥協のない映像美と原作尊重の脚色を行い、ファンの期待に応えました。その結果、ファンは作品世界に深く没入し「推し活」とも呼ばれる積極的な支持活動(グッズ収集や複数回観賞など)を行うようになります。鬼滅の劇場版を何度も映画館に足を運んだファンや、ポケモンの新作発売日に行列を作るファンの存在は、IPへの愛着が経済効果へ直結する好例です。ファンの熱狂を生むにはコンテンツの質とブランドへの信頼が不可欠であり、両IPはそれを継続的に提供してきた点で優れています。

おわりに:グローバルIPビジネスの未来に向けて

ポケモンと鬼滅の刃の成功事例から学べることは、「優れたIP」は国境を越えて巨大なビジネスチャンスを生み出すということです。

徹底したメディアミックス展開、デジタル時代に即した発信戦略、積極的な国際協業、そして何よりコンテンツの魅力とファン第一の姿勢——これらが相まって、IPは単なる作品の枠を超えたグローバルブランドへと成長します。

日本発のIPが世界中で支持され収益を上げることは、クリエイターや企業にとって大きな誇りであると同時に、日本のソフトパワーを示す存在にもなっています。

昨今、エンターテインメント業界はストリーミングサービスの普及やメタバースの台頭など、新たな潮流にありますが、ポケモンや鬼滅の刃に見る成功の原理は今後も色褪せないでしょう。

すなわち、「多様な形で物語を伝え、世界中のファンと繋がり、共感を呼ぶこと」。この普遍的な戦略を磨き上げることで、次なる日本発グローバルIPが誕生し、世界を席巻する日も遠くないかもしれません。

ビジネスとファンダムの両面から支持されるIPの創出に向けて、本記事の考察が一助となれば幸いです。

参考文献・出典

  1. FINDERS (2023年3月29日). 『1位はポケモン!キャラクター「メディアミックス」総収益の世界ランキングに日本の底力を見た』
  2. TitleMax (2019年) “The 25 Highest-Grossing Media Franchises of All Time”
  3. 株式会社ポケモン (2023年12月27日). 「YouTubeチャンネル登録者1,000万人達成『ダイヤモンド クリエイター アワード』受賞」(公式ニュース)
  4. PocketGamer.biz (2024年7月5日). Craig Chapple “Pokémon Go catches nearly $8 billion in eight years”
  5. Wikipedia英語版 “Pokémon Go” (accessed 2025) ; “Detective Pikachu (film)”
  6. KAI-YOU (2021年5月10日). 「『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』2020年の全世界興収1位に 煉獄さんの誕生日に達成」
  7. 河北新報オンライン(オリコンニュース転載) (2025年7月17日). 「『鬼滅の刃』累計2.2億部突破!4年半で+7000万部 集英社『連載終了後も圧倒的な人気』」
  8. NBCコンサルティング ブログ (2021年3月3日最終更新2023年11月24日). 「鬼滅の刃に見る経済効果!」
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