【インタビュー】Amazon Music総括責任者ライアン・レディントン氏が語る、日本発「推し活」から学ぶオーディオエンタメの未来

GIPI.tokyo 2025/11/20
世界50カ国でサービスを展開し、1億曲以上の音楽に加えてポッドキャストやライブ配信を提供するAmazon Music。
そのグローバルを統括するのが、Amazon Music総括責任者のライアン・レディントン氏です。
日本では2025年6月新たに、定額制サービス「Amazon Music Unlimited」とオーディオブックサービス「Audible」が連携し、90万冊以上のオーディオブックが追加料金なしで楽しめるようになるなど、「オールオーディオエンターテインメント」への進化が加速しています。
しかし、レディントン氏が繰り返し強調するのは、技術やカタログの大きさだけではありません。
「世界でファンダムが最も高いレベルで表現されているのが日本です」と語る同氏にとって、日本のファン文化——いわゆる「推し活」は、Amazon Musicの戦略そのものを形づくるインスピレーションの源になっているといいます。
本記事では、レディントン氏へのインタビューを軸に、Amazon Musicが描くオーディオエンタメの現在地と、そこから見える日本発「推し活」カルチャーのグローバルな可能性をひもときます。
ストリーミングから「オールオーディオエンタメ」へ──Amazon Musicの現在地

まずはAmazon Musicというサービスの全体像からうかがいました。
「Amazon Musicのストリーミングサービスを立ち上げたのは2014年です。2016年には定額制の『Amazon Music Unlimited』をスタートし、現在は世界50カ国でサービスを展開しています。直近5年間でUnlimitedの利用者数はほぼ3倍に増加しており、成長の中心には常に“ファン活動”があります」とレディントン氏は語ります。
同社は、単に楽曲のカタログを拡大するだけでなく、アーティストとのコラボレーションやライブストリーミング、物販までを巻き込んだ立体的な体験を重視してきました。日本でも人気を集めるプレイリスト「Japan Top 50」は、ローンチ以降、音楽ランキングのひとつの“文化的試金石”となり、再生回数は開始当初から60%増加したといいます。
さらにAmazon Music Unlimitedでは、HD音質・空間オーディオ対応の1億曲以上の音楽に加え、ポッドキャストやアーティストのライブパフォーマンスのライブ配信を統合。そして今回、Audibleの全カタログである約90万冊のオーディオブックへのアクセスが加わることで、日本初の「真のオールオーディオエンターテインメントの拠点」を目指すと強調します。
他のストリーミングサービスと比べたときのAmazon Musicの特徴について尋ねると、レディントン氏は「“Amazonでの体験すべてがファン活動に接続していること”です」と答えます。
音楽を聴き、気に入ったアーティストのCDやアナログ盤、TシャツやグッズをAmazonのストアで購入し、そのアーティストが出演するライブ映像をPrime Videoで観る。
さらにはTwitchを通じてリアルタイムの配信に参加する——。音楽、Eコマース、ライブストリーミングが一つにつながったエコシステムこそが、Amazon Musicがストリーミング市場の中で差別化を図っているポイントです。
「お客様にとって大切なのは、“どのアプリで聴くか”ではなく、“どんな時間を過ごせるか”です。音楽もポッドキャストもオーディオブックも、一つのサブスクリプションの中でシームレスに行き来できることが、Amazon Musicならではの価値だと考えています」
世界のオーディオエンターテインメントは今どこへ向かっているのか

では、世界全体で見たとき、オーディオエンタメの潮流はどこへ向かっているのでしょうか。
レディントン氏は、「一言でいえば『耳で過ごす時間の多様化』です」と説明します。
コロナ禍を経て在宅やリモートワークが増えた一方で、通勤・通学や家事、ワークアウト、犬の散歩といった“ながら時間”はむしろ細分化しました。その結果、音楽だけでなく、ニュース、トーク、物語、学びなど、耳で楽しむコンテンツのニーズが一気に広がったといいます。
オーディオブックサービスのAudibleは、この10年で日本を含む世界各国で急成長を遂げ、書籍市場の中でも最も成長の早いカテゴリーのひとつになりました。
日本では2022年に「聴き放題」モデルを導入して以降、会員数が2倍以上に増加したといいます。自己投資・学習として聴く人もいれば、エンタメとしてドラマや小説を楽しむ人も多く、オーディオコンテンツは生活のさまざまなシーンに溶け込みつつあります。
近年特徴的なのが、「つくり手」の広がりです。
Audibleでは著者自身がオーディオブックを制作・配信できるセルフパブリッシングの仕組みも整備されつつあり、個人クリエイターが自らの声や物語を世界に届けやすくなっています。
ポッドキャストやユーザー生成コンテンツの人気も相まって、「耳の世界」はプロとアマチュア、メジャーとインディーズの境界がどんどん曖昧になっているのです。
さらに、車載インフォテインメントシステムやスマートスピーカー、HD・空間オーディオに対応したヘッドホン・スピーカーの普及により、「どこでも、高音質で」楽しむ環境が整ってきました。
レディントン氏は「車の中ではAndroid AutoやCarPlayでスマートフォンとつながり、家庭ではスマートスピーカーで一言声をかけるだけで音楽が流れる。デバイスの成熟が、オーディオ体験の可能性をさらに押し広げている」と指摘します。
日本の音楽文化とオーディオエンタメの独自性

そうした世界的な潮流のなかで、日本の位置づけはどのようなものなのでしょうか。
「日本は、世界の中でも特別な存在です。ファンダムが最高の形で表現される場所だと考えています」とレディントン氏は断言します。
象徴的なのが、夏の音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」のグローバルライブストリーミングです。
Amazon MusicとPrime Video、Twitchが連携して配信した昨年のライブは、全世界で数千万回という視聴を集め、同社が手がけたすべてのフェス配信のなかで最も多くの視聴者数を記録しました。
「フェスの配信に注目が集まることは、日本発の音楽体験へのグローバルな需要を示す好例です」とレディントン氏はいいます。
また、日本のファンはストリーミングで音楽を聴くだけでなく、いまもCDやアナログレコード、ライブ会場限定グッズを積極的に購入します。
Amazonはフジロックにあわせて、アーティストと共同で限定グッズを制作し、オンラインストアを展開。そうした取り組みの背景には、「日本のファンとアーティスト、そしてその家族との間にある深い絆を可視化したい」という思いがあるといいます。
レディントン氏は、「日本の音楽市場はデジタルとフィジカル、オンラインとオフラインが共存し、相互に補完し合っているのが特徴です」と語ります。だからこそ、日本で成功したファン施策は、そのまま世界のロールモデルになりうるのです。
ファンダムと「推し活」は何が違うのか
ここで改めて整理しておきたいのが、“ファンダム”と“推し活”の違いです。
レディントン氏がグローバルで重視しているのは「fandom(ファンダム)」という概念ですが、日本の文脈ではそれが「推し活」として、より生活に根ざした形で発展してきました。
一般的にファンダムは、あるアーティストや作品を愛する人々の集合や、そのコミュニティ全体を指します。一方で推し活は、ファン一人ひとりの“行動”に焦点が当たっています。
楽曲を繰り返し再生する、配信でコメントを送る、グッズを集める、聖地巡礼をする、ハッシュタグで感想をシェアする……。日々の生活の中で、自分の「推し」を応援するあらゆる行動が推し活です。
レディントン氏は、日本の推し活について「ファンが“受け身で楽しむ”だけではなく、“能動的に支える”フェーズまで踏み込んでいる点が特徴的です」と語ります。
だからこそ、Amazon Musicもサービス設計の段階から、再生回数やランキングを見える化するプレイリスト、限定コンテンツやライブ配信、グッズ連携といった“推し活の導線”を意識してきたといいます。
Japan Top 50のようなランキングプレイリストが文化的な参照点になっているのも、「推し活としての再生」が数値として可視化されるからです。再生ボタンを押すその瞬間が、推しへの“投票”になる——。
そうした感覚は、日本のファンがいち早く体現してきたものであり、今や世界中の若いリスナーにも広がりつつあります。
なぜファンダム施策は「まず日本チームに聞く」のか
インタビューの中で印象的だったのが、「ファン施策を考えるとき、まず日本のチームに相談する」とレディントン氏が繰り返し口にしていたことです。
「世界中でファン活動の取り組みのヒントを探す際、私たちはまず日本のチームに相談し、お客様から逆算して考えます」と同氏。
Amazonでは“Working Backwards(お客様からの逆算)”という考え方が知られていますが、日本市場で熟成された推し活の知見は、その代表例だといえます。
例えば、フェスのグローバル配信と連動したグッズ販売や、ランキングと連動したプレイリスト企画、アーティストとファンをオンラインでつなぐライブ配信イベントなど、世界共通の施策にも日本チームのアイデアが色濃く反映されています。
「日本のファンが心から楽しめる体験をつくれば、その多くは世界のファンにも響く」というのが、レディントン氏の実感です。
さらに同氏は、Z世代のリスニングトレンドを把握する上でも日本は重要な指標になっていると語ります。
「Japan Top 50に並ぶ曲の多くは、日本のZ世代が聴いているものの縮図です。ジャンルのボーダーが溶け、J-POP、K-POP、アニメソング、ボカロ、インディーズまでがプレイリストの中でフラットに並ぶ。その姿は、これからのグローバルなリスニングスタイルを先取りしているように感じます」
日本の推し活カルチャーが拓くグローバルな可能性
最後に、こうした日本発の推し活カルチャーが、今後のグローバル戦略にどのような影響を与えるのかを聞きました。
「日本のファンは、アーティストやクリエイターと“家族”のような関係を築いています。ライブに足を運び、配信を見守り、グッズを買い、ランキングを押し上げ、オーディオブックやポッドキャストまで楽しんでくれる。その姿は、世界中のファンにとってのインスピレーションです」とレディントン氏は話します。
Amazon MusicとAudibleが連携した「オールオーディオエンターテインメント」の構想は、まさにその延長線上にあります。音楽でアーティストを知り、ポッドキャストで素顔に触れ、オーディオブックで物語の世界に浸る——。
ファンが推しと過ごす時間を立体的に設計することこそ、これからのファンダムプラットフォームの使命だといえるでしょう。
同時に、日本の推し活は、音楽の枠を越えた広がりも見せています。声優やVTuber、二次元キャラクター、作家や声のクリエイターなど、「声」と「物語」を軸にした推し活が増えているのも日本ならではです。
レディントン氏は、「こうしたカルチャーは、オーディオブックやポッドキャストとの相性が非常に良く、世界にユニークな体験として届けられるポテンシャルがあります」と期待を寄せます。
日本で磨かれた推し活の様式とカルチャーが、世界中のファンのスタンダードになる日も遠くないかもしれません。レディントン氏は、「日本のお客様とともにファン体験を進化させていくことが、そのまま世界のオーディオエンターテインメントの未来につながっていきます」と語り、インタビューを締めくくりました。
“推し”を愛し、支え、広める。日本の推し活であふれるその熱量から学ぶことは、まだまだ尽きそうにありません。
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