専門性×興味でキャリアと企業をつくる——INFINIT8小林弘和氏 GIPI講演レポート

GIPI.tokyo 2025/11/10
2025年11月2日、3日に、東京・竹芝で開催されたちょもろー25 iUtopia 会場の8Fステージでは、情報経営イノベーション専門職大学(iU)が推進する「グローバルIPインスティテュート(GIPI)」のスペシャルレクチャーとして、株式会社INFINIT8 代表取締役・小林弘和さんを迎えた基調講演が行われました。
テーマは「専門性×興味でキャリアと企業をつくる」。
グローバルIPビジネスの最前線で奮闘する若手起業家が、自身のキャリアや事業、そしてこれからの学びと働き方について、学生たちに等身大の言葉で語ってくれました。
GIPI.tokyoの活動についてレビュー
GIPIは、メディアイノベーションデザインラボ(MID Lab.)が中心となって進める、グローバルIPビジネスの人材育成と研究のためのプロジェクトです。
急成長するアニメ・マンガ・ゲームなどの日本発コンテンツをはじめ、食やロボット、ライフスタイルまで広がりつつある「IP(知的財産)」を、世界市場でどうビジネスに変えていくのか。
そのノウハウを学べる場やコミュニティが、日本にはまだ十分にありません。
そこでiUは、研究・教育・実務をつなぐハブとしてGIPIを立ち上げ、ウェブメディア「GIPI.tokyo」や企業との共同研究、イベントを通じて、学生がグローバルIPビジネスに触れ、学び、挑戦できるエコシステムづくりを進めています。
本講演は、そのGIPIプロジェクトのキックオフを飾るセッションでもありました。IPビジネスを支えるテクノロジー企業として、INFINIT8はGIPIの共同研究パートナーでもあります。
大学とスタートアップが一体となって次世代のIPビジネス人材を育てていく——そのコンセプトを、まさに体現する時間となりました。
「資源エンジニア」からIPビジネスの起業家へ

小林さんの経歴は、一見するとIPビジネスとは無縁に見えます。
東京大学・大学院では、橋梁などのインフラマネジメントやレアアース資源の社会実装といった、資源工学・資源経済学の研究に没頭していました。
卒業後も大企業や官庁ではなく、あえてスタートアップの世界に飛び込み、様々なテーマの0→1フェーズに関わる道を選びます。
「もともとレアアースや橋の研究を一生の専門にしようと思っていたわけではなく、『技術や資源をどう社会に実装するか』というプロセスに一番興味があったんです」と小林さんは振り返ります。
研究の現場では、技術だけでは物事が動かないことを痛感しました。
資金をどう引っ張るか、どの省庁とどう交渉するか、どんなステークホルダーを巻き込むか——社会実装には、複数のレイヤーをつなぎあわせる総合力が必要だという気づきが、その後のキャリアの軸になっていきます。
スタートアップの現場では、システム開発、マーケティング、デザイン、事業計画づくりなど、必要なことは何でも手を動かしながら覚えていきました。
特別な「天才的専門家」になるのではなく、複数の分野を横に広げて学び、現場とテクノロジー、ビジネスをつなぐ「ハブ」のような役割を磨いていったのです。
専門性×興味という「かけ算」で生まれたINFINIT8
そんな中で出会ったのが、INFINIT8の核となる「カスタマイズクラウド」の技術でした。キャラクターグッズなどをオンラインで自在にカスタマイズし、受注生産できるECの裏側を支える基盤技術です。
20年近く研究が続けられてきたこの技術は高い完成度を持ちながらも、「どの領域でどう使えば本当に価値を発揮できるのか」が明確になっていませんでした。
そこで小林さんは、さまざまな業界の人に技術の話を持ち込み、フィードバックを重ねていきます。
その過程で出会ったのが、世界的に知られるキャラクターIPを持つ企業でした。グッズのカスタマイズというニーズと、INFINIT8の技術が「ぴたり」と重なったのです。
ただしそこから先は、一言で言えば「グローバルIP企業とのプロジェクト」ですが、実際には1年半以上にわたる人間ドラマと地道な調整の連続でした。
IPは絶対に傷つけてはならない神様
大手IP企業にとって、自社ブランドは「絶対に傷つけてはいけない神様」です。
スタートアップのように「とりあえず出してみて、ダメなら直せばいい」というリーンなアプローチは、IPビジネスでは基本的に通用しません。
あるプロジェクトは2年単位の長丁場になり、試作品ひとつをとっても、クオリティや世界観の整合性を徹底的にチェックされます。
小林さんがその高いハードルを乗り越えることができたのは、技術だけでなく、UI/UXやシステム要件、ものづくりの現場感覚まで含めて、全体を設計し提案できる「複合スキル」があったからだといいます。
ここには、小林さん自身の「専門性×興味」のかけ算が色濃く表れています。
研究で培った社会実装・全体最適の思考法、スタートアップで鍛えた事業づくりの経験、そして子どもの頃から親しんできたアニメやスポーツなどのカルチャーへの興味。それらが重なるポイントとして、グローバルIPビジネスというフィールドが浮かび上がり、INFINIT8という企業のかたちになっていきました。
学生へのワーク:「専門性」と「興味」を書き出してみる

講演の後半では、学生に向けた簡単なワークも提案されました。紙を二つに分けて、左側に「専門性」、右側に「興味」をできるだけたくさん書き出してみる、というものです。
「専門性」といっても、世界一詳しい必要はありません。
大学の授業や部活、アルバイト、趣味など、「自分なりに勉強したり、試行錯誤したりしたこと」があれば十分です。一方の「興味」は、将来こんな仕事に関わってみたい、こんな世界が好きだ、といった感情ベースのもの。ここにも正解はありません。
ポイントは、その二つのリストの間にある「重なり」を探すことです。一見バラバラに見える専門性と興味も、抽象度を変えて眺めてみると、共通のキーワードや思考プロセスが浮かび上がってきます。
小林さんの場合、「インフラマネジメント」も「レアアース」も「スタートアップ」も、「社会実装」「全体最適」「シミュレーション」という共通項でつながっていました。
その軸を意識すると、新しい領域に出会ったときにも「自分ごと」として興味を持ちやすくなり、学びのスピードも上がっていきます。
「今やっている勉強や経験が、将来どこに繋がるかは正直わかりません。でも、きちんと身につけたスキルや思考法は、必ずどこかで活きてきます。
だからこそ、食わず嫌いをせず、広く学んでみてほしい」と小林さんは学生たちに呼びかけました。
グローバルIP市場は「自動車産業を超えるチャンス」

では、グローバルIP市場は今どこまで来ていて、どんな可能性があるのでしょうか。
小林さんは、アニメ産業の海外売上がすでに国内を上回り、2兆円規模に達しているというデータを紹介しながら、「成長率を考えると、日本の自動車産業に匹敵し、ゆくゆくは超えていくポテンシャルがある」と語ります。
海外に目を向けると、その実感はさらに強まります。
例えば、現在の上海の街は、日本のIPであふれていました。日本には存在しない「JUMPカフェ」があり、ビルの大型ビジョンには人気ゲームの映像が流れ、街角のショップには日本発のキャラクターグッズが所狭しと並んでいます。
一方で、中国発のオリジナルIPも、かつてネットで話題になったパロディレベルをはるかに超えたクオリティに成長しており、世界市場で存在感を増しています。
IPの対象も広がっています。
アニメやマンガだけでなく、アーティストやタレント、伝統芸能、和牛や寿司といった食文化、さらにはヒューマノイドロボットに学習させる「丁寧な作業動作」まで、日本独自の振る舞いや所作そのものがIPになりつつあります。
荷物を投げずに丁寧に扱う日本の空港や物流現場の動きを学んだロボットは、世界的にも高い価値を持つ可能性があります。
こうした広義のIPをどうビジネスとして設計し、世界に届けていくのか。ここには、テクノロジーとクリエイティブ、ビジネス、法律、そして文化理解までをつなぐ新しい職能が求められています。
GIPIが目指す「グローバルIPビジネス人材」とは、まさにそのような複合能力を備えた人たちだと言えるでしょう。 
AI時代に求められる「全体最適」と「泥臭さ」
講演で強く印象に残ったのが、AI時代のスタートアップと人材についての話です。
INFINIT8では、昨年の時点で事業開発やリサーチを担う人材を十数人規模で採用する計画を立てていました。しかし、生成AIの実用化が一気に進んだ結果、その採用計画はほぼゼロになったといいます。
「リサーチャーや若手コンサル的な役割は、AIと起業家の対話でかなり代替できるようになってしまったんです。AIで仮説をつくり、専門家にだけ最終チェックをお願いする。そうすると、人を何人も雇う必要がなくなってしまうんですよね」
一方で、AIでは代替しづらい能力の重要性は、むしろ高まっています。
それは、現場と戦略の間に入り、ステークホルダーの感情も含めて全体を設計し、プロジェクトをやり切る総合力です。
IPビジネスのプロジェクトで最も大変だったのは、システム開発そのものよりも、ブランドを損なわない品質を担保するために、ひたすら試作品をつくり続けるような「ものづくりの泥臭さ」だったといいます。
裏返せば、他の人が嫌がる細かな作業や調整ごとを、丁寧に最後までやり切れる人ほど、組織の中で不可欠な存在になっていきます。
学歴や肩書きよりも、「めんどくさいことを丁寧にやる力」が、AI時代のキャリアのブレークスルーポイントになる——そんなメッセージは、会場の学生たちにとって耳が痛くも力強いエールとなりました。
これからグローバルIPビジネスに挑戦したい人へ
では、これからグローバルIPビジネスに挑戦したい学生や若手にとって、何が入口になるのでしょうか。小林さんは、次のようなポイントを挙げました。
第一に、「IP=アニメ・ゲームだけ」と考えず、広義のIPに目を向けること。
伝統芸能や食、ロボット、スポーツ、地域文化など、自分の興味がある分野の中に、必ず「IPとして価値を持ち得るもの」が眠っています。
第二に、ビジネスの言葉とルールを学ぶこと。
どれだけIPが好きでも、契約や知財、ファイナンス、マーケティングがまったく分からないままでは、ビジネスのテーブルに乗ることができません。法律や会計の専門家になる必要はありませんが、「最低限、会話ができるレベル」までは自力で引き上げておく必要があります。
第三に、AIを前提とした学び方と働き方にシフトすること。
情報収集や基礎的な資料作成は、AIを活用すれば圧倒的に効率化できます。そのぶん空いた時間で、自分なりの視点を磨き、現場に飛び込んで経験を積むことが、他者との差別化につながります。
「指示待ちの専門家」はAIと競合しますが、「AIを使いこなしながら全体最適を考えられる人」は、スタートアップでも大企業でも重宝される存在になっていくはずです。
GIPIが描く、大学発グローバルIPビジネスの未来
GIPIプロジェクトは、こうした変化のただ中で、大学から新しいグローバルIPビジネスの担い手を育てていく取り組みです。
「GIPI.tokyo」では、IPビジネスの現場で何が起きているのかを、企業やクリエイターへの取材を通じて伝えていきます。生成AIと著作権のように、ネット上の断片的な情報だけでは見通しにくいテーマについても、実務家の声を集めながら、学びのコンテンツとして整理していく予定です。
同時に、INFINIT8のようなスタートアップや、国内外のIPホルダー、官公庁・自治体などと連携し、学生がプロジェクトベースでIPビジネスに関わる機会もつくっていきます。教室の中だけでは学べない「現場の複雑さ」と「楽しさ」を、早い段階で体験してもらうことが狙いです。
大学での学び、スタートアップの実務、グローバルな市場、そしてAIという新しいインフラ。そのすべてが交わる場所として、GIPIはこれからもアップデートを続けていきます。
今回の基調講演は、その第一歩として、「専門性×興味」でキャリアと企業をつくるという考え方を学生たちの心に刻み込みました。
5年後、10年後、この日の話をきっかけに、自分なりの専門性と興味を掛け合わせ、世界に新しいIPビジネスを生み出すiU発のプレーヤーがきっと現れているはずです。
その未来を楽しみにしつつ、GIPI.tokyoとともに、その歩みをこれからも追いかけていきたいと思います。
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